Designer: Eva Maria Leszner (本: ABC - Kreuzstichmusterより)
Fabric: Permin(Wichelt) 40ct Natural Brown Undyed
Thread: MADEiRA - silk(018) -color#1008
213W×187H, 1over2

作品にタイトルが付いていないため「Vierlande風デザイン」と仮に名付けています。
アンティークに見られるモチーフとの共通点が多くあるので、Vierlande系に分類しました。
復刻ではありませんが、是非刺したいと思っていたデザインです。
2008年、ペルミン復刻サンプラーの開始前に完成。

オリジナルでは、左下の名前部分が"FUR TAMALA LESZNER KOLN"となっています。
1977年に、お嬢様への贈り物としてデザインし、ステッチされたようです。
Fur は英語のForに当たります。Koln(ケルン)はドイツの都市名。
Vierlandeからではないと思われるモチーフ(中央下と右下など)も混ざっています。
アレンジが入っていても、まとまりとアンティーク感のあるところが魅力的だと思います。
なお、中央下のモチーフに似ているフリーチャートを、記事の後半で紹介します。

-周囲の言葉について-
ドイツ語でこう綴られています。
"Wer immer das Gute erstrebt. Verlangt eben darin auch nach dem Schonen.
Es ist das gleiche Verlangen. Das sich auf das Gute richtet. Auf das Schone und auf den Frieden."
「善の追求は美の追求と不可分であり、善へ向かうことは、美と調和へ向かうことに等しい」
全体の意味を大まかに拾ってみました。中らずといえども遠からず…といったところでしょうか。
詩的・哲学的な内容が気になり調べたところ、引用だと分かりました。原典までは辿りついていません。
原文を書いたのは、20世紀の哲学者 ヨゼフ・ピーパー(Josef Pieper)。
思想の根本は、中世の神学者・哲学者 トマス・アクィナス(Thomas Aquinas)によると思われます。

=チャートのエラーについて=
もしステッチされるなら、事前のチャート修正をお勧めしたく思います。全力で。
シンメトリーの不一致によるエラーが大変多く、特に右3つと中央下のモチーフは、
刺しながら修正できるような代物ではないと感じました。
他にも、底辺左寄りの鳥が抜けていたり、右上角の鳥の形が違っていたりします。
さらに、周囲の文を区切るマークの間違いと抜けにも注意が必要です。文字を動かす必要があります。
細かいエラーを挙げればキリがありません。
私はエラーの多さに気付かないまま、刺し始めてしまいました

=失敗と反省=
この1作を境に、5つ、意識するようになったことがあります。
 <1> 開始前にチャートをざっと眺める。ステッチ中も任意に随時。
 <2> ステッチ中は、完成見本をしまいこまず、すぐに参照できる場所に置く。
 <3> チャートを修正する範囲が広い、あるいは数が多い場合は、KG-Chartを使う。
 <4> 初めて使う糸は、1束が1本換算で何メートルなのかを把握しておく。
 <5> ステッチ前、または糸の購入前に、作品に必要な糸の量の見積もる努力をする。

ステッチ中は、ひどい後手後手でした。箇条書きの番号は上へ連動します。失敗編。
 <1> 右下から刺し始め、角のモチーフ途中で初めてエラーに気づき、一旦停止。
 <1><2> 完成見本とチャートを見比べているうちに、次々に他のエラーにも気付く。
     結果、ほぼリセットすることになり、糸と時間を無駄にする。
 <3> 本からコピーしたチャート上で修正しているうちに、耐えられなくなる
   (ステッチ記号が、マス目の対角を結ぶ×印で、非常に見づらかったことも関係しています)
 <3> 見やすいチャートにしようと、白紙のマス目用紙を用意し、手で描き直し始める。
   修正過程でエラーを増やし、何度も修正テープのお世話になる羽目に。
 <4><5> 1パック(*)の量を把握しないまま、初めての糸を使い、2度買い足す。
    取扱い店を1店しか知らない糸だったため、片道1時間半の遠征へ。
 <4><5> 消費した量は、思いがけない多さになった。

まとめて散々な経験をした甲斐あって、その後がとても楽になりました。
今振り返ると、行き当たりばったりも時には悪くないと思えます。何とかなります。
総ステッチ数を気にかけたり、糸の量を計算する習慣が付いたのは、この時からでした。
大作ではありませんが、色々な意味合いで思い出深い1作です。

*:使用したMADEiRAのシルク糸は、ビニールのパックに封入されています。
 どのような糸か気になる方は ⇒ クリック 
 リンク先は、マデイラ刺繍糸の国内販売総代理店、QTJコンサルティング(株)のWebページです。

=フリーチャートの紹介=

中央下のモチーフに似ているフリーチャートを2つ。
・鳥8羽バージョン ⇒ Webサイト DragonBear
             アイスランドの古い刺繍作品に出てくるモチーフとして紹介されています。
・鹿8頭バージョン ⇒ Isabel Gancedoさんの個人Webサイト gancedo.eu
             (下記ブログで公開された全チャートを、ジャンル別に分類してくださっています)
            ⇒ ブログ Tantes zolder  http://myauntsattic.weblog.nl/
             (接続が重いようなので、敢えてリンクしません。該当記事は2007年12月にあります)

 【追記】10/11(Tue.)
 ブログ Tantes Zolderについて
 IsabelさんのWebサイト、gancedo.eu内の説明を読んでの追記です。
  "Tantes Zolder"はオランダ語で「おばさんの屋根裏部屋」という意味だそうです。
  Lilian Kokさんが、彼女のおばさまの屋根裏部屋で、クロスステッチの手書きチャートを見つけ、
  それらをデジタル化して公表するためにブログを作られたそうです。
  ブログで公開されたチャートの総数は300近くになる、とのことです。
 (追記ここまで) 

-覚え書き-
中央下の類似モチーフ(鳥8羽)が掲載されている本。
・"Embroidery Motifs from Dutch samplers" p.24, 169  英語版
 "Stickmotive aus alten Mustertuchern" 非所有, ドイツ語版
 "Merklapmotieven en hun symboliek" 非所有, オランダ語版
  著者: Albarta Meulenbelt-Nieuwburg
  Dutch samplerのモチーフ集。種類別に分類され、各意味の解説有り。
  英語版でのモチーフ名称は、Star with fleurs-de-lys and eight birdsと書かれている。
  表紙と言語の異なる数種があり、注意しないと重複する。一時期、ドイツ語版も所有していた。
  表紙は、英語版2種、ドイツ語版2種、オランダ語版は新旧3種ある様子。
・"Letter voor Letter" p.10 オランダ語 ISBN:978-9040090165
  著者: Gieneke Arnolli 他
  Fries Museum のサンプラー図録。フルカラー。英文の要約が6ページ有る。
  Frisian sampler(オランダ)でも類似のモチーフが見られる。
・SANQ vol.44 (Fall 2006) p.26