「んっ?」

と思っていただければイタズラ成功  継いでいない1枚のリネンから成る不思議な形。

本題。
ひょんなことから裏糸を全て縦に揃えることができました。まとめを書きます。

今回書く方法は、Ebenseer Kreuzstich (Ebenseer Art)と呼ばれている
クロス・ステッチの技法と、非常によく似ています。
ただし、Ebenseerと全く同じ方法かどうかは分からない、と念を押させてください。
Ebenseerの詳細は 不明な部分が多いので、照らし合わせることができていません。
この技法を追いかけていたわけではなく、別の切り口から解いています。
Ebenseer Kreuzstichが およそどのような技法なのかは、以下の記事を参照ください。
  Needleprint日本へ ⇒ Rudolf LippekさんのEbsenee Art

裏糸を 全て 縦に揃えるのは、特殊な刺し方です。
通常のステッチ方法よりも手間がかかり、表の刺し目が乱れる短所があります。
ですが、それらと引き換えにしても、刺した裏が全て縦に揃うのは痛快です。
特にパズル好きの方にとっては、面白く取り組み甲斐があると思います。
この記事では、主に「パズルを作る方法 と 考え方」を説明します。
裏側を、あえて縦に揃えてみたい方へのヒントになれば幸いです。

以下、項目を6つに分けています。
【1】図案例×5、ステッチ用順路図の作り方(基本)
【2】根底にある考え方
【3】経路図
【4】ステッチする際の注意点
【5】応用への断片的なヒント
【6】ステッチ用順路図の作り方(まとめ版)

【1】図案例×5、 ステッチ用順路図の作り方(基本)

- ステッチ用順路図 の作り方 -
≪実際に使った物≫図を描く適当な紙、4色ボールペン、鉛筆、消しゴム。

(1)ステッチ中に通る辺 を書き入れた図を作る。
 マス目は不要。まず表の×、次に左右に縦線(裏部分)を描く。表と裏の辺は違う色にする。
  ※この記事中では、表を青色、裏を赤色に統一しています
   慣れるまでは、大きく描くことをお勧めします。次の(2)が楽になります。
(2)ハーフ・クロス(青)と縦(赤)の線を交互に通るよう、一筆書きパズル(例1~4)を解く。
 間違えても修正できるよう鉛筆を使用。
 解いた線は、ステッチの順路確認に使う目的があるので、後からもう一度たどれるように描く。
  ※頂点や辺をなるべく重ねないよう工夫すると、後から見やすくなります。
 ・例4のヒント
  一筆書きをすると、始点と終点は別の頂点になる。
  例3の拡張。例3に、三目つぎ足す経路を考えれば解ける。
 ・例5のヒント
  これのみ一筆書きできない。裏糸を全て縦に揃えることはできる。
  例4の拡張。例4に、一目つぎ足す方法を考えるための例。


※左の「経路図」は、順路の説明用に作った図です。
「ステッチ用順路図」で描いた線を、このように作り直す必要はありません。

- 例1の経路図 -
 一筆書きパズルを解くと、始点・終点は同じ頂点になり、サーキットができる。
 図を作るときは、どの頂点からでも開始可能。図とは逆周りの別解もある。

 - 経路図のたどり方 -  
 ・青と赤交互に進む。
 ・青色の辺(表のハーフ・クロス)に接している赤矢印は、
  次に進む赤色の辺(裏の縦)の方向を示している。
  同様に、赤色の辺に接している青矢印は、次に進む青色の辺の方向。

パズルを解く面白さを残しておきたいので、残りは後回しに。


【2】根底にある考え方
「裏を縦に揃える経路を考える」ことと「一筆書きのパズルを解く」ことは、非常に近い関係にあります。
場合によっては、完全に一致します。
Ebenseer Kreuzstichの gifアニメーションを見れば、分かりやすいかもしれません。
  ⇒ Webサイト"Kissy-Cross"内のページ "Ebenseer Kreuzstich" (ドイツ語)
   ※ページの一番下、右側です。
動きを追うと、一筆書きになっています。
裏と表のステッチ(1コマ)を繰り返し、全ての経路を1度ずつ通っています。

この記事で説明する方法の基本は、Ebenseerと同じ「一筆書き」です。
一筆書きができない場合や、実際のステッチで糸始末を考慮する場合(*)に、 
重複して通る辺を裏に加えて縦に揃える
方法、になります。 (*)【4】で後述。

= 一筆書き が可能かどうかの判定法 = 
以下(A)または(B)のいずれかが成り立てば、一筆書きが可能。
(A) 全ての頂点(布目)に出入りする辺(刺繍糸)の本数が偶数
(B) 頂点(布目)に出入りする辺(刺繍糸)の本数が奇数になる場所が2つで、残りは全て偶数。
         
 (A)は、始点と終点が同じになる。閉じているので、任意の点から開始可能。
 (B)は、始点と終点が別の場所になる。奇数の頂点2つが、始点と終点。
 参考 ⇒ Wikipedia 「一筆書き」

補足:例1~3は(A)、例4は(B)に当たります。
    例5は、(A)(B)いずれも成り立ちません。一筆書きできない判定。
    ただし、2度通過する辺を加えることで、裏を縦に揃えられます。


【3】経路図
- 例2 ~ 4 -
 
緑の○印は、出入りする辺が奇数になる頂点 を示している
S (スタート)と G (ゴール)は入れ替え可能。図とは逆周りの別解もある。

- 例5 -

緑の○印は、4箇所。
緑の○印2つをつなぐ辺(黒の破線:重複して通る辺)を増やせば(右の図)、
一筆書きでは行き止まりになる場所を通過できるようになる。
※出入りする辺が偶数の頂点は「入りと出」がある通過点、ということです。


【4】ステッチする際の注意点
・順路図の通りにステッチすると、ハーフ・クロスの上側に来る糸は揃わない。
 必要に応じて、ステッチ済みのハーフ・クロスをすくい、糸を下に通す必要がある。

・ステッチを開始する位置は、糸始末を縦にできる場所を選ぶ必要がある。
 始点を、裏の縦糸(赤)が垂直に数目伸びている線上の頂点にすると、縦に始末できる。
 - 具体例 -
  例4~5は、経路図の始点・終点のまま刺すと、糸始末が上手くできない。
  緑の○印(S:始点、G:終点)をつなぐ辺を追加し、経路を閉じてサーキットにする。
  任意の頂点から開始できるようになるので、例えば、一つ左の頂点を始点にする。


【5】応用への断片的なヒント
「このようなステッチができた」という例を紹介します。

5つのステッチ例 ※裏側の写真は、左右を反転させています。全て糸始末していません。
(a) あえて一筆書きでステッチ。
(b) 出入りする辺が、奇数になる頂点は4つ。例3 (一筆書き可能)との対比。
(c) 出入りする辺が、奇数になる頂点は6つ。辺を追加した結果、通常のステッチ方法にかなり近くなる。
(d) 飛び地へ渡る例。
(e) 中央部分は、例2をそのまま利用できる。作った順路図はモチーフの半分。


【6】ステッチ用順路図 の作り方(まとめ版)
途中の話を盛り込んだ方法になっています。
ここまでの話の中で、理解できなかった部分があったとしても、
以下(1)~(4)ができれば、ステッチ用の順路図は完成します。
≪使用する物≫図を描く適当な紙、ペン4色、鉛筆、消しゴム。

(1)ペンの1色目(青)で、チャートの×(表の辺)を描く。2色目(赤)で、左右に縦線(裏の辺)を加える。
(2)出入りする辺の数が奇数になる全ての頂点 に○印を入れる。3色目(緑)使用。
  ※緑の○印は常に偶数個。
(3)縦の線(裏の辺)に沿って、○印どうしの間に 辺を加える。破線の必要はない。4色目(黒)使用。
  ※この時点で、表と裏の辺の数は一致。
  「ハーフ・クロス(青)」 = 「裏の縦(赤)」+「追加した裏の縦(黒)」
  また、全ての頂点に出入りする辺の数は偶数に。
(4)表(青) と 裏(赤or黒) を交互に通過し、全ての辺を1度ずつ通る1本の線を描き入れる。
  鉛筆を使用。任意の頂点から開始可能。終点=始点。
  ※赤と黒(裏側)の辺を進む方向は、常に同じ向き。

- 順路図(1)~(3)の一例 -
モチーフは、Vierlande samplerでよく見られる小鳥です。

小鳥が含まれているフリーチャートを紹介します。
  ⇒ Needleprint日本へ
    ※ 2つあるフリーチャートの下側。
      隠れている小鳥は16羽。

最後に。
一言でまとめるなら、クロス・ステッチの裏糸を縦に揃える順路は「3次元の一筆書き」です。
Happy puzzling & stitching!


- 余談 -
一筆書きは、オイラー路 (グラフ理論の用語)と密接な関係があります。
 ・グラフの全ての を1度ずつ通る路  → オイラー路
似ているようで、異なる概念もあります。
 ・グラフの全ての 頂点 を1度ずつ通る路 → ハミルトン路
 ※グラフ理論: 数学の一分野。 グラフ: 点と辺から成る図全体。

ことの始まりは、検索中に見た 正12面体のハミルトン閉路のオブジェ でした。
ステッチ中のWinders' Keeperで仕立てる小さな多面体が、正12面体なのです。
展開図のバリエーションを考えていました。
ハミルトン路から始まり、オイラー路、一筆書き、最短経路問題の話を読んでいるうちに、
裏を全て縦にするステッチができそうだと気付きました。
過去、Ebenseer Kreuzstichについて調べたことはあるのですが、
「一筆書き(最短経路)」になっていることは、今回初めて理解できました。
そんなわけで、Winders' Keeperのことを考えていて、思わぬ副産物ができた次第です。

冒頭写真の不思議な形は「ハイパーカード」と呼ばれている、パズルの一種。
今回のテーマとは無関係のパズルです。

そして、肝心?のWinders' Keeperは さっぱり進んでいません。